チョウチョとお月さま⑤

しばらくして、ルンちゃんは、
雨にぬれない、大きな木の幹で、蛹になりました。
何日かして、また新月の夜を迎えたとき、
お月さまの声がきこえてきました。
「ルンちゃん、こんばんは。
きれいなチョウチョになったら、
さいしょに何をしたいのかしら?
いっぱいやりたいことが、あるものね。
今のうちに、ゆっくり考えておくといいわね。」
ルンちゃんは、心の中で、
「お月さま、ありがとう。チョウチョになったら、
まず、お空からこの美しい森を眺めたいの。
そして、素敵な結婚相手を見つけるの。
そのあと、かわいい卵を産みたいな。
なんだか、とってもワクワクしてきたわ。」
とつぶやきました。

つぎの満月の夜、とうとうルンちゃんは、
蛹から、うつくしいアゲハチョウになりました。
ルンちゃんは、ゆっくりとまわりを見まわしながら、
羽が乾くのをまっています。
するとお月さまが、
「ルンちゃん、おめでとう。とってもかがやいているわね。
いよいよ、お空へ飛びたつのね。さあ、勇気を出して!」
と励(はげ)ましてくれました。
ルンちゃんは、羽がちゃんと乾いたのを確認すると、
深呼吸をして、ゆっくりと羽を広げてみました。
そして、勇気をだして、飛びたちました。
「こんばんは、お月さま。
わたし、とうとうチョウチョになったわ。
お空を飛ぶって、本当に気持ちいいのね。
それに、ここはなんて美しい森なんでしょう。
お月さま、いろいろありがとう。お月さまのおかげで、
こんなにきれいなチョウチョになれたんですもの。」
ルンちゃんは、お月さまにこころからお礼をいいました。

ある新月の夜、
ルンちゃんが、ひまわりの蜜(みつ)を見つけて、
おいしそうに飲んでいると、お月さまの声がきこえてきました。
「こんばんは、ルンちゃん。毎日たのしそうね。」
ルンちゃんは、
「こんばんは、お月さま。
ええ、毎日とっても楽しいわ。
それに、そろそろ結婚相手にも出会いたいの。
でも、すてきなチョウチョを見かけても、
なかなか声がかけられないの。
勇気をださなければね。」といいました。
お月さまは、
「そうね。その勇気はとっても必要なことね。
この先の池のほとりに、
ヤマユリの花がいっぱい咲いているのを知ってるかしら?
そこには、満月になると、
とってもたくさんのチョウチョが集まるのよ。
ルンちゃんも、いって見たらどうかしら。」といいました。
「ありがとう、お月さま。さっそくこんどの満月にそこに行ってみるわね。」
ルンちゃんは、目をきらきらさせながらいいました。